討死を覚悟のうえで、探題館に攻め込んでいった武時。そんなにも、彼の心を倒幕へ傾けたものは、一体何だったのでしょうか。
その答えは、それまでに菊池一族が辿ってきた歴史そのものにあるとされています。
源平合戦のさなかに活躍した、6代隆直。九州支配を目論む平氏に対抗して「養和内乱」を起こしますが、この頃に発生した大飢饉により戦いを継続できなくなってしまい、平氏の配下に下る結果となってしまいました。
しかしその後平家は没落。平家側として戦った菊池一族は多くの所領を鎌倉幕府に没収されてしまいます。
更に8代能隆の時代、1221(承久3)年の承久の乱では、鎌倉幕府に対抗して立ち上がった後鳥羽上皇について、北条氏と戦ったものの敗れてしまい、この時には本領の一部を没収されてしまいました。
鎌倉幕府による度重なる所領没収。この頃の菊池一族は、喉から手が出るほど所領の回復を求めていました。
そして1274(文永11)年。その大きなチャンスが巡ってきます。元寇(蒙古襲来)です。
この時に輝かしい活躍を見せたのが、10代武房でした。
2度にわたった元寇の際、女子どもも容赦なく襲撃した元軍の兵は「鬼のよう」と恐れられました。その元軍をものともせずに戦った武房のことが、主人公・竹崎季長(たけざきすえなが)の「憧れの人」として「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」の中に描かれています。
時代の最先端を行くお洒落な装い、恐ろしい侵略者を次から次へとなぎ倒す強さ・・・。竹崎季長は、戦いを終え、敵の首級(しゅきゅう)を引っ提げて、意気揚々と引き揚げてきた武房に出会います。
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「どなたでいらっしゃるか、凛々しい方!」
ひときわ目を引く武者がいた。彼の装いも、その手柄も、全てが彼を惹き立てていた。
あれは誰だろう。思わず俺は、声を掛けていた。
「肥後国より参った、菊池二郎武房。そちらは?」
よくとおる、朗とした名乗り。菊池といえば、竹崎家の縁戚筋だ。
これも、何かの縁だろうか。
「そちらと同じ血筋の、竹崎五郎兵衛季長と申す!これより先駆けとして参るので、どうかお見届けいただきたい!!」
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「憧れられる男」菊池武房。
しかし、その大きな武功とは裏腹に、幕府からの恩賞は極めて少ないものでした。
元軍との戦いで、決して無傷とは言えない代償を払ったにもかかわらず、念願の本領回復は叶わず一族の不満は蓄積の一途を辿っていくことになります。
こうした積年の鎌倉幕府に対する感情が、武時を倒幕の挙兵へと突き動かしたのです。
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